その後も数回このようなことが続いていたが、そのほとんどが彼女からの誘いだった。そして、
初めて手をつないだのも彼女の方からだった。
バイクに乗り、少し世間からズレていて、半ば投げやりになっていた俺。自分の生活スタイルを変えることを恐れていたはずの
俺の心を、いとも簡単に引き込んでしまった彼女という女性。
本気で好きになってしまうかもしれないと戸惑いを覚えた頃。
「次会うときは、一緒にお酒でも飲もうよ家行っていい?」
彼女は美人と言えるような感じじゃない。そう、犬に例えるなら柴犬といったところか。
感情に裏表のない、誠実でまじめで、快活で、そしていつも主人の行動や仕草を好奇心のある眼差しで見つめているような。そんな感じだ。
俺の話に笑い、そして驚く。一緒にいて気持ちよいと感じ始めた頃には、彼女の目を見て話している自分がいた。
その次の週末、教えてあった俺の住所を頼りに彼女はバイクでやってきた。
手にはワインと缶ビール。「明日は休みだよね?飲みまくりましょうか。ハハ」
家に入り、テレビをつけて、酒を飲み始めた。
飲んでる間色々な話をした。俺が北海道に行った話、バイクに乗り始めた頃の話。
彼女の生い立ちや、家族構成、実はごく近所に住んでいること。
俺は笑い、そして彼女も笑った。こんな酒飲みは何時以来だろう?
そして、不可解だった彼女との最初に出会った頃の話も聞けた。
彼女の歳は27歳。俺より学年では一つ上であることと、結婚にあせっているらしいこと。
つまりはそういうことだったのか。彼女自身が”一世一代の大勝負”に出たらしい理由もようやく理解することができた。
彼女は酒に強いらしく、俺は結構つらくなってきた。
そして、最後には彼女を忘れて、気持ちよく寝てしまった。
冬から出しっぱなしになっているコタツは心地よく、いつの間にか頭の下には折りたたんだ座布団が敷いてあった。
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